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特許法第2条第1項を改正してはどうだろうか

現行法では「発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」となっているが、これを「発明とは、産業上利用できる技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と改正してはどうだろうか。要は、「自然法則の利用」は要らないと思うのである。これが法目的にピッタリの定義であり、現代の日本における発明に対する認識を反映した定義ではないだろうか。

なぜ、特許法は「自然法則の利用」に限定しているのか。よくわからない。自然法則を利用したアイデアでなければ産業の発達は有り得ない? 特許法は自然科学の進歩を図ることが目的? なんでもコーラーさんが今から200年前に「発明とは自然力を利用して・・」と言われた? 特許法2条第1項から「自然法則の利用」を削除したら出願が殺到する?

いずれも説得力に欠ける。「自然法則の利用」を規定する積極的な理由にはなっていないのである。

私はソフトウェア関連発明の実務に携わっているが、この分野においては「自然法則の利用」という文言が形骸化しているし邪魔にさえなってきているように思われる。そのための解釈上の苦労が、先般特許庁から発表されたソフトウェア関連発明の審査の運用指針の随所に見られる。

例えば、この指針では、「ハードウェア資源を用いて処理すること」は「自然法則の利用」であるという。つまり、たとえ処理対象が自然法則と無関係であってもコンピュータを用いて処理する限りは「自然法則の利用」であるという。具体的には、「商品の売上げ予測装置」や「ゲーム装置」が挙げられている。このような解釈は時代の要請に応えてソフトウェア関連発明を積極的に保護しようとする姿勢の現れである点において歓迎すべきことであるが、その理論構成自体に無理があるのである。

つまり、本来、「商品の売上げ予測装置」や「ゲーム装置」は、直接的には「自然法則を利用した技術的思想」とは言えないであろう。これら装置は、「自然法則を利用した技術的思想」だから発明なのではなく、製造や販売の対象になる、即ち、「産業上利用できる技術的思想」だから発明である、と言いたいところではないだろうか。

また、上記指針には、「自然法則を利用した手段であっても、コンピュータを用いて処理をすることのみである場合は、発明としない」とある。つまり、自然法則を利用した技術的思想であっても発明ではない、即ち、自然法則を利用した技術的思想ではないという。わかったようでわからない。まさに力づくの説明である。すごい、という他ない。

そうではないであろう。ハードウェア資源を用いて処理することが発明であるならば、コンピュータを用いて処理をすることも発明であろう。単にコンピュータを用いて処理をすることのみである場合には、「発明」ではあるが「進歩性のある発明」とは言えない、とすべきであろう。

さらに、上記指針では、プログラムの取扱いが改訂されている。例えば、これまでの「プログラム自体は自然法則を利用した技術的思想ではないから特許されない」から、「プログラム自体は物のカテゴリーか方法のカテゴリーかが不明であるので特許されない」に変わっている。また、「プログラムを記録した記録媒体」や「データを記録した記録媒体」も、これまでの「発明に該当しない」から「発明に該当する」に変わっている。つまり、これらは、わずか数年の間に「自然法則を利用した技術的思想」でなかったものが、いとも簡単に「自然法則を利用した技術的思想」になってしまったのである。いったい何のために特許法2条1項は「自然法則を利用した技術的思想」と規定しているのか、考えさせられてしまう。

いま、例えば「プログラム」の如く新たな概念を特許法の保護対象とすべきか否かを考える場合に、それが「自然法則を利用した技術的思想」であるか否かという観点はもはや重要ではなくなってきているように思う。それが製造や販売の対象になり得るか否か、即ち、「産業上利用できる技術的思想」であるか否かという観点から判断すればよいのではないだろうか。

「発明とは、産業上利用できる技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」、やはり、これがピッタリである。